少しは時間があったので外に出てパン売の少年とバザールの入り口の果物屋の主人を撮る。

朝の光を浴びて市街を抜け、オリーブの丘を越え、草の少ない岩山の続くただ一本のヨルダンに通ずる舗装の一本道をバスは走った。いつ降ったとも知れぬ谷間の砂利の川跡をみたらこの意志の産業のむづかしさを思う。

しばらく行くとラクダが一匹いた。羊の群れと牧人たちを岩山のすそに見る。このバスは海抜−40mを死海へと走っている。

岩の山が切れてようやく平地の砂漠となる。前方に暗く光る死海が見えだした。あの向こうがヨルダンとの国境とのこと。

死海の海辺を辿って、クムラン洞穴跡とその宗国居住地遺跡を見る。世界最古の写本(死海写本・死海文書)の発見されたという洞穴のある丘陵性の山々(木のない赫土)を見る。

バスは返って死海近くのただ一軒の家のそばにとまる。その付近は砂漠に水を引いて西瓜など栽培されていた。死海の水はどんなだろう。走って死海まで行く。水はさすがに見慣れた海の色はしていない。木片の浮かんだ水に手を入れ、舐めてみると苦くからかった。お土産屋で銅細工を買う。

ジュースを飲んでほっとする。じりじりと暑い。ラクダが二、三匹、客待ち顔である。

それからしばらく砂漠の中を走って30分位だったろうか、緑の木々の生い茂る中に赤紫の燃えるようなブーゲンビリアの花を見て驚嘆の声を上げた。砂漠の中のオアシスとは誠にこれであるか。奇蹟のように木々がしげり、花が咲き、街には毛皮屋、織物屋、果物屋。オリーブやトマトや、野菜は茄子やキャベツや紫黒い果肉の野菜など。人々は生き生きとしていた。ここは世界最古の街、ジェリコの街とのこと。

海抜下392米。走ってブーゲンビリアの花を見にいく。目もさめる美しさである。房のある皮のショルダーバッグを買う。15ドル。もと来た道を帰り、昨日のところで食事をとったが私はIさん兄妹についてバザールの方へ行きパンに野菜や肉を炒めたもの入れたのとジュースを買って昼食にした。

ロックフェラー博物館を見る。立派な彫刻や焼き物、金物など古代のものがたくさんあった。

一昨夜きた道を引き返してテルアビブ飛行場へいく。谷は深く、緑濃く、あんずの花、オリーヴの木、ヒマラヤスギ、一本杉のような木が植樹されたように断層の山に立ち並んで美しい。

山は石垣の段々畑、土は赫土、背の低いぶどう畑もある。石ごろの丘陵の肌にミモザがひくく小さくはうようにしてまっ黄なはなざかり。

くらやみに走った山間は昼間見るとかなり木々も生いしげり、イスラエルでは沃野のうちである。空港に近くなってようやく農耕地らしい麦畑もある。オレンジの園もある。

ようやくテルアビブ空港につく。空港を出るとき検閲がきびしく垂れ幕の個室に入れられ身体検査をされカメラを見取られた。私はフィルムを抜いてみせると通過した。カメラを取ってしまうのかと心配したが飛行機にのって返した。

夜、キプロス島のニコシヤ空港に入る。ホテルリドにようやくつき九時夕食、風邪気味で早く寝る。